なぜメディカルアロマセラピーは心と身体に効果があるの?
匂いや香りが治療(セラピー)になるって不思議に思われるのではないでしょうか?
アロマセラピーって、いい香りを嗅いで単なるリラックスのためのものでしょう、と思われている方もいらっしゃるかもしれませんね。
フランスやベルギー、ドイツなどでは医療従事者による医療行為として認められているアロマセラピーですが、日本ではまだまだ医療の分野では十分に活用されていないのが現状です。
しかし、植物から抽出した精油には様々な 「芳香分子」 と呼ばれる成分が含まれていて、そのひとつひとつが薬理作用を持っています。近年、メカニズムと効用、効能についての科学的根拠がだんだんと明らかにされてきました。
そんな精油を使ったアロマセラピーはさまざまな心身の不調を和らげたり、健康増進につながるセルフケアに活用できるのです。
この記事では、アロマテラピーがなぜ効果があるのか効く仕組みと安全に使用するために注意することについてお伝えします。
メディカルアロマセラピーに使われる、「精油」って何?
天然100%の植物の「力」
精油とは植物の花や葉、果皮、樹皮、根、種子、樹脂などから抽出した成分を高濃度に含んだ揮発性の芳香物質です。
合成香料などは一切含まれていない100%の天然素材です。
精油は原料となる植物をギュギュっと濃縮したもので、バラの精油25gを得るためにはなんと約12万個ものバラの花弁が必要と言われています!
植物はなぜ精油を生成するのでしょうか。
その理由はまだ完全には明らかにされていません。しかし、それは植物がその長い長い進化の歴史の中で作り上げてきた生存戦略なのだと思います。
- 繁殖のために、受粉に必要な昆虫を引き寄せる作用
- 害虫を駆除する作用
- 強力な抗菌作用を持つ精油もあり、それによって植物自身が真菌や細菌の攻撃から身を守っている
これら植物が作り出した成分が人間の心と身体にも効用をもたらすのです。
しかも、これらの植物の作る成分の構造は非常に複雑なものが多く、現代の科学技術を用いても容易に合成できるものではないようです。それを考えると本当に自然の力ってすごいな、って思うのです。
薬理作用
精油にはさまざまな薬理作用があります。
たくさんある作用のなかから一部をあげてみます。
- 抗菌作用:細菌の増殖を抑え、感染を予防する
- 抗ウイルス作用:ウイルスの増殖を抑え、感染を予防する
- 抗真菌作用:真菌の増殖を抑え、感染を予防する
- 免疫賦活作用:免疫の働きを強め、活性化する作用
- ホルモン調節作用:ホルモン分泌を調整する作用
- 自律神経調整作用:交感神経と副交感神経のバランスを整える作用
- 鎮痛作用:痛みを緩和する作用
- 去痰作用:痰を溶かし、排泄させやすくする作用
- 血液循環促進作用:末梢血管を拡張し、血流を促す作用
- 抗不安作用:不安な気持ちを和らげる
- 誘眠作用:スムーズな眠りへと誘導する
などなど・・・
精油の含有成分(芳香成分)は1つの精油中に多数違うものが存在します。そしてそれぞれの成分の割合で、その精油の薬効が決まってきていると考えられます。
ひとつの精油を例にとってその中身を見てみましょう。
ユーカリ・ラディアタ
主な作用:呼吸器系の炎症を抑える、去痰、抗菌、抗ウイルス、咳を鎮める
【主な芳香成分】 | 【成分の割合】 | 【主な効果】 |
1,8‐シネオール | 60~75% | 去痰、呼吸器 |
リモネン | 3~10% | 消毒、殺菌、抗炎症 |
α‐ピネン | 2~5% | 消毒、殺菌、抗炎症 |
β‐ミルセン | ~2% | 消毒、殺菌、抗炎症 |
γ‐テルピネン | ~2% | 消毒、殺菌、抗炎症 |
α₋テルピネオール | 5~10% | 抗菌、強壮、駆虫 |
酢酸テルピニル | 微量 | 鎮痙、鎮静、抗炎症 |
酢酸ゲラニル | 微量 | 鎮痙、鎮静、抗炎症 |
シトラール | 微量 | 抗炎症、鎮静、血管拡張、強壮、虫よけ |
このようにしてみると、ひとつの精油中にはたくさんの種類の芳香成分が含まれていることがわかります。含まれている主要成分が効果、作用の目安になります。
また、ユーカリは種によって含まれている芳香成分が変わってきて、薬効も変わってきます。ユーカリ・ラディアタのほかにユーカリ・グロブルス、ユーカリ・シトリオドラなど、多くの種があり、それぞれ薬効が異なりますので、選ぶときには注意が必要です。
身体への吸収経路
さて、これらの芳香成分がどのようにして体内へ吸収されて効果を発揮するのでしょうか。
まず、精油の芳香成分が身体に取り込まれるには3つのルートがあります。
- 鼻→脳
- 鼻→肺→血液→全身
- 皮膚→毛細血管→全身
においは脳へダイレクトに働く
ルート1:鼻→脳
鼻の奥の粘膜に溶け込んだにおい成分は、嗅覚系を経て電気信号として脳の大脳辺縁系の扁桃体・海馬に伝えられます。また、視床下部を経て大脳皮質に達して香りを認識していきます。
【大脳辺縁系】 視床下部と関係しながら自律神経や内分泌機能を調節し、本能行動(食欲・性欲・睡眠欲)をコントロールしています。大脳辺縁系に含まれる扁桃体は恐怖や不安、好き嫌いなどの原始的な感情をつかさどっています。海馬は記憶の中枢であり、生まれてからの経験・学習して獲得した記憶を貯蔵しています。五感の中で嗅覚だけが、海馬や扁桃体と直結していると考えられています。
【視床下部】 生命活動に必要な新陳代謝、体温調節、水分摂取、性行動の調節などの総合的な作用を行う自律神経の最高中枢であると同時に、内分泌系の中枢である下垂体と密接に連携し内分泌系(ホルモン)の調節を行う部分です。
【大脳皮質】 論理的な思考、言葉を話す、精神作用などの高次神経機能を営みます。
芳香成分がこれら脳内の各部位に働きかけることで、
- 自律神経系の調整・・・交感神経と副交感神経のバランスを整えます。自律神経がかかわる不調にはさまざまなものがありますが、[動悸、肩こり、眼精疲労、胃腸の不調、イライラや不安感、やる気や集中力の低下、不眠]などの症状を和らげます。
- ホルモン(内分泌系)の調整・・・精油のホルモン分泌を調整する作用は、月経全症候群(PMS)や更年期障害の治療にも応用されています。
- 免疫系の調整・・・脳の視床下部が司っていると考えられています。視床下部を活性化することで、免疫系の働きを向上させることが期待されています。
- 認知機能の向上・・・アルツハイマー症、非アルツハイマー症、いずれの認知症の患者においても、芳香浴によって、認知機能が向上することが分かってきました。
- 感情・情動行動の調整・・・感情や情動を司る、扁桃体に働きかけることで、不安感やうつ状態などの改善効果が認められています。
鼻や皮膚から吸収したにおい分子も血液に乗って全身に働く
ルート2とルート3では精油は、最終的には血液をめぐり全身に伝わります。
ルート2:鼻→肺→血液→全身
呼吸とともに吸い込んだ精油成分は、気道の粘膜から吸収されわずかながら血液に入ります。抗菌作用や抗ウイルス作用のある精油を吸入することで感染の予防になったり、精油の種類によっては鼻詰まりを解消したり、呼吸器系の局所作用が得られたりします。
ルート3:皮膚→毛細血管→全身
精油をオイルで薄めて肌に塗ったり、精油を入れた風呂に入浴したりすることで、芳香成分が皮膚と鼻から吸収され、血管を通って全身をめぐり、あらゆる組織に働きかけます。皮膚への直接効果で保湿作用や美容面の効果も期待できます。
鼻や皮膚からの吸収が組み合わさることで、
- 体質改善作用・・・肝臓、肺、リンパ系、腎臓、腸、汗腺などの機能を調節し、粘液、大便、尿、月経血などに含まれる有害な物質の排泄を促進します。解毒と血液浄化により、体質を改善する作用があるといわれています。
- 鎮痛作用・・・アロマセラピーは痛みの閾値を変えることによって、特にがん性疼痛を抑え痛みを緩和することも報告されています。
メディカルアロマセラピーのセルフケアへの活用
アロマセラピーは男性、女性、大人も子どもも誰にでも日常の中で気軽に役立てることができます。
ここでは簡単に行える方法を3つご紹介します。
【芳香浴法】空間に香りを拡散させます
- ティッシュペーパーを使って・・・ティッシュペーパーに精油を落として吸入します。安全で手軽に楽しめます。お部屋の中や、お休み時に枕の近くに置いても。
- ディフューザーを使って・・・アロマ専用のディフューザー(芳香拡散器)を使って広範囲に長時間香りを拡散できます。
【アロマバス】入浴時に精油を使う方法です(1~5滴)。温熱効果+精油で相乗効果が高まります。
精油は脂溶性でお湯に溶けないため、原液が肌に直接触れると皮膚トラブルの原因になるので天然塩に混ぜて使いましょう。リラックス効果のある精油を使用し、38度くらいのぬるめのお湯にゆっくりつかることで副交感神経優位になり、心地よい眠りを導きます。
【蒸気吸入法】洗面器やマグカップに熱いお湯を入れ、精油を落として蒸気を吸い込む方法です(1~3滴)。ユーカリラディアタや、フランキンセンスなどが呼吸器の不調に役立ちます。
注意点
精油が身体に吸収される量は微量ではありますが、精油の成分はハーブティーなどに含まれている成分より50~80倍ほどに濃縮されているため、使用には注意が必要です。原液のまま肌につけてはいけません。
日本では、まだ精油の内服は研究段階なので、経口摂取は避けなければいけません。
精油の選び方
品質の悪い精油を使った健康被害の報告などもあり、精油の選び方には注意が必要です。
製品情報、表示事項を確認しましょう。これらが書かれているものを選びましょう。
- 学名 例)ラベンダー Lavandula angustifolia (ラワンデュラ属 アングスティフォリア種)
- 抽出部位 例)花、葉、果皮など
- 原産地
- 抽出法 例)蒸留法、圧搾法、超臨界CO₂抽出法など
遮光瓶に入っていて、瓶の口にドロッパー(中栓)がついているものが望ましいです。
アレルギー
天然資源がすべて安全であるとは限りません。
漢方薬やハーブ、食べ物などでもアレルギーを起こす可能性があるのと同様です。古くなった精油を肌に使用するのはアレルギーのリスクを高めるので注意が必要です。
アレルギー体質の方は精油を使用する前にスキンチェックをしてから使用するとより安全です。
※スキンチェックの方法・・・小さじ1杯(5ml)の植物油に精油2滴を混ぜ、腕の内側に適量塗り、1日~2日放置します。肌にかゆみや炎症などの異常が起こらないかどうかを確認します。異常があった場合は大量の水で洗い流してください。
注意が必要な方
- 高齢者:通常の半分以下の濃度から試してみましょう。
- 既往歴がある方:高血圧、てんかん、糖尿病、肝臓疾患、腎臓疾患などの持病のある場合に避けた方がいい精油があるため、注意が必要です。
- 乳幼児:3歳未満の乳幼児は芳香浴のみ、3歳以上の子どもは成人の使用量の10分の1程度から2分の1程度にし、注意しながら使いましょう。子どもには使えない精油にも注意。
- 妊娠中・授乳中:妊娠中の方は安定期(5か月くらいまで)は芳香浴のみにし、濃度も通常より薄めにし、気分が悪いなどの症状が現れたらすぐに中止しましょう。妊娠期と授乳期を通じて避けた方がいい精油があるので注意。
精油の取り扱い
- 保管場所:遮光瓶に入れてふたをしっかり閉め、立てた状態で冷暗所に保管する
- 使用期限:開封後は1年以内(柑橘系は半年以内)を目安に使い切る。(ブレンドした精油は1か月以内)
酸化した精油はアレルギーの原因になるので肌には使用しないようにしましょう。
精油は薬ではない
精油には薬効があるのは確かなことですが、薬機法上「医薬品」ではありません。医薬品の規制を受けていないため、「雑貨」として流通・販売されていますが、医薬品でないものを効能効果をうたって販売することはできません。
アロマセラピーは医療行為ではないので、治療や診断をするものではなく、あくまでもリラクゼーション目的として活用されます。
まとめ
今回は、メディカルアロマセラピーがなぜ効果があるのかについてお伝えしました。
アロマセラピーは、何の知識もなくても、好きな香りを選んで、心地よい香りで癒されることもできます。
一方で、アロマセラピーの薬理学的に効く仕組みと安全に使うための正しい知識を得て、精油のもつパワフルな力を存分に発揮させることができれば、副作用を防ぎ、より一層セルフケアに役立てられます。
日々の暮らしの中で、気軽に精油を活用する毎日を送るうちに、だんだんと心も身体もラクに自然体になっていく…、そんな力を秘めているのがアロマセラピーだと思います。